45. 小林先生への告白④

いじめトラウマを生き抜く方法

過去のいじめで苦しんでいる(いじめ後遺症の)あなたへ。いじめ後遺症うつ病者本人が、自身の、いじめ体験・いじめトラウマ体験・うつ病闘病体験について語ります。いかにトラウマを生き抜くかを考えます。いじめ自助グループ、トラウマ無料スカイプ相談など。

45. 小林先生への告白④

僕はいつもにも増して極度に緊張して、研究室の中で突っ立っていました。すると小林先生がトイレから戻って来て、そんな僕の様子には気にもとめない感じで、自分の机のイスに腰をかけました。いつもなら僕も研究室にあるイスに座るのですが、そのときはイスに座っている余裕もありませんでした。僕は極度に緊張して、体を硬直させて突っ立ったまま、先生に例のことを尋ねました。「先生、僕はクズでしょうか」ちょっと間がありました。「さあ、どうでしょうねえ」と小林先生は言いました。そして、「とりあえずイスに座ってくださいよ」と言ってくれました。

 

僕はそれでやっとイスに座りました。しかし、まだ極度に緊張してうつむいていました。小林先生の顔を見ることもできませんでした。しばらく沈黙が続きました。そして、小林先生は次のように言い始めました。「私はクズでないというよりも、クズであるのにクズでないと思い上がっている人に、お前はクズだ、と言ってやることのほうが大切だと思っているんですよ」。

 

今から思うと、僕はクズですか、という質問の仕方自体のほうに問題があったような気がします。なぜなら人間なんてしょせんクズだからです。それはどんな人間でもそうなのです。そういう意味では、僕の質問に対し小林先生は、あなたはクズです、と答えなければならないのです。

 

しかし僕がクズという場合、それは真実としての「クズ」というよりも、自己否定という意味での「クズ」だったのです。「クズ」というよりも「ダメ人間」という言い方のほうが正しかったのではないかと思います。「僕はダメ人間ですか」と質問すべきだったのです。そしてそれに対して小林先生は、きっとNOと答えてくれたはずなのです。それを「クズ」という仕方で表現してしまったらから、小林先生に答えを渋らせてしまったのでした。小林先生は自分のことをクズだと思っている人間よりも、自分は偉い人間なのだと思い上がっている人間に対し、お前はクズだということを言ってやらなければならないと思っていたのでした。

 

そして、小林先生と話して行く中で、僕はダメ人間ではないということが分かりました。あんなに恥ずかしくてダメ人間であった過去の僕を知った後も、小林先生は決して僕のことをダメな奴だとは思っていないようでした。ダメどころか小林先生は僕のあのノートを読んでいて、僕のことを随分進んでしまっているとまで言ってくれたのです。「下村君はもう平均よりも随分先に進んでしまったのですよ、もう十分インテリですよ、エリートですよ」こうまで言ってくれたのです。僕は小林先生に軽べつされるようなことはないと信じていましたが、まさかかえってそんな答えが返ってくるとは思ってもみませんでした。

 

僕のことをインテリだなどと言うなんて信じられない気がしました。もしかして僕をからかっているのではないかとも思いました。しかし小林先生がそんなことをするはずがありません。だとすればやっぱり僕は、かえって人よりも先に進んでいるのだろうかと思いました。僕はキツネにつままれたような気持ちでポカンとして小林先生の話を聞いていました。そして、そのころにはようやく少しリラックスしてきました。「わたしはむしろ、下村君がこれから周りの人と接するようになって、周りの人が下村君よりも遅れているのを見てあきれてしまうのではないか、と思ってそっちのほうが心配なんですよ。周りの人に失望しないように注意しておかないといけませんよ」。「私は下村君が孤高の人になってしまうのではないかと思って、そっちのほうが心配ですよ。孤高の人というのはカッコイイですけどね」。小林先生は僕をダメと思うどころか、人よりも先に行ってしまっていて、それで周りの人に愛想尽かしてしまうのではないか、そっちのほうを心配していたのでした。僕には夢のような話でした。「僕が孤高の人だなんて」本当に信じられないことでした。それまで8年間もの間、自分のことをクズだクズだと言い続けて来た僕が、孤高の人だなどと言われたのです。世の中が180度回転したような気持ちになりました。しかも小林先生は僕の情けない過去を知っているのです。知った上で僕のことをインテリだなどと言ってくれたのです。間違いもなくこの小林先生との話し合いで、僕は大きく前進しました。飛躍しました。長い間、本当に長い間苦しんで来た過去から、僕はやっと解放され始めたのでした。

 

そして、もうひとつ、やっと大河内君の話をしました。今いじめで苦しんでいる人のために僕が、何ができるかということを話しました。過去の自分の体験を実名で発表しようかと思っているということを伝えました。すると小林先生は苦笑をして「復讐譚ですか」と、言いました。これにも少なからず驚きました。復讐だなんてとんでもない、僕はいまだに「彼」のことが怖いのです。「彼]の実名など出したら、どんなひどい目に合うだろうと思うと今でも恐ろしいのです。それが復讐だなんて、そんな気持ちをもつ余裕など僕には持ち合わせていませんでした。僕はただ、今踏みにじられて苦しんでいる人に勇気を与えるためには、僕自身も勇気を出して真実を発表するしかないと思っただけなのです。「彼」に対する攻撃など思ってもみませんでした。今考えてみても、「彼」の実名を出すことは、「彼」を傷つけるというよりも僕が再び傷つけられる結果になるのではないかとしか思えないのです、そして小林先生は「実名など出さない方がよいですよ」と言いました。それから発表するにしても、「受け取る側がどのように受け取るか難しい所ですよ」、とも言いました。 つまり僕がいかに苦しんでいる人のためにと思っても、僕の思っている通りに相手に伝わるか難しいというのです。こうして、実名入りで過去のことを発表しようと思っていた僕の決心は揺らいでしまいました。そのことについてはもう一度よく考えてみようと思い、そのときはそれでその話は終わりにしました。しかし、実名は出さなくてよいと言われて内心ホッとした気持ちにもなりました。やはり僕にとって過去のことを実名で発表することはとても勇気のいる辛いことだったのでした。だから実名を出さなくてよいと言ってもらえて、かえってホッとしたのでした。

 

前に戻る |  続きを読む

トピック④うつ病闘病体験に戻る