いじめられることによって、いじめ被害者の中で起きていることは何でしょうか?
いじめ被害体験の本質は、いじめ加害者の暴力によって、いままで自分が信じてきた自己肯定感覚が破壊される、ということです。今まで持っていたプライド・名誉心、自分は自分だという思いが、破壊させられるということです。自分の拠り所を力ずくで破壊されることです。自分は自分のままであっていい、という確信が破壊されるということです。
いじめ被害者は、暴力によって、はじめの一撃で、既に傷つき、力で打ち負かされ、やがて屈服し、最後まで闘えず屈伏してしまったというおのれに対する失望感の中で、同時に驚き、恐れ、そして精神的なパニック状態に陥るのです。
精神的なパニック状態とは、屈伏して精神的に裸にされ無防備な状態にあって恐怖心で頭の中が真っ白になってしまっている状態です(精神的レイプ)。正常な判断はできず、もういじめ加害者に何も抵抗ができなくなってしまっている状態です。
そしてそんなパニック状態になっている間にこそ、いじめ加害者は暴力を重ね、それを通して負のメッセージを、いじめ被害者を不幸にするために、徹底的に植え付けるのです。つまり「お前は、お前のままであってはならない」「お前はダメだ」「お前はクズだ」という負のメッセージです。
いじめ被害者は、こうした暴力とそれ(悪)に屈服してしまったという自分に対する失望感、そしていじめ加害者の前でもはや自分を防衛できないという恐怖の感情の中で、おのれの存在の拠り所であった自己肯定感覚を喪失し、負のメッセージである、自分はダメだ、つまり自己否定感覚がおのれの心の中を占めるようになってゆきます。
つまりいじめ被害者は、いじめ被害体験を通して、自分は自分のままであってよい、という確信を破壊され、自分を肯定することができなくなる、自己肯定不全の状態に陥るのです。自分はダメな人間だと思いこむようになるのです。今や彼の心を占めるのは自己否定感覚です。「オレはダメな人間だ…」、彼は、不幸になったのです。
そして、度重なるいじめ行為によって、その負のメッセージは、いじめ被害者の心の中に巣くうようになり、いじめ体験という実際の現実が終わった後も、彼の中で生き続け、彼に負のメッセージを送り続けるようになるのです。これを「いじめの内在化」、といいます。そうです、いじめ加害者がいなくなっても、負のメッセージはその後も長く彼の人生の中で猛威をふるうことになるのです。これこそ、いじめトラウマであり、これが「いじめ後」という事態なのです。