卒論について小林先生に相談に行ったとき、始め僕は、過去のことを書こうかと思っているのですが、と言いました。それに対して小林先生は次のように答えました、
「わたしもそのことについて考えてみたのですが、そのことは卒論なんかにするよりも、自分の作品にしてみたらどうですか」。
僕はびっくりしました。僕のような頭の悪い人間が本なんて書けるわけないじゃないか、この先生は何とむちゃなことを言うのだろうと思いました。
今まではそんことは考えたこともありませんでした。信じられないと言った感じです。
しかし事実小林先生はそう言ったのです。僕はからかわれているのではないかと思いました。しかし小林先生がそんなことを言うはずはない、だとすれば小林先生は本当に僕が本を書く資格があると思っているのか、と思いました。
それから家に帰ってからも僕はそのことで頭が一杯でした。「作品にしてみろ」と言う小林先生の言葉はいつまでも僕の心の中で繰り返されました。そして、11月の終わりごろからとにかく自分のことについてノートに書きはじめたのでした。