そしてここでわたし達の問題として取り上げてゆきたいのが、トラウマ性のうつ病、PTSDの症状としてのうつ状態、というものです。(以下、「トラウマ性のうつ病」で表現を統一します。)
もともと心因性のうつ病の系統だと思われますが、そのストレスの原因が大きな心的外傷(心の傷、トラウマ)にあると考えられる場合の心因性うつ病を、ここでは「トラウマ性のうつ病」と呼びたいと思います。
トラウマ性うつ病の原因となるトラウマとしては、よく知られているものとしては、戦争・戦場体験トラウマ、虐待体験トラウマ(児童虐待、性虐待、拷問、いじめ)、被災体験トラウマ、などがあげられます。
これらのトラウマ性うつ病(PTSD)の大きな特徴は、次の2つになります。
①薬が効かない
②回復(病気の寛解)までに非常に時間がかかる
①1に関しては、どんなに抗うつ薬を大量に服用しても、種類を増やしても、うつ状態の軽快になかなかつながらないということです(わたしの場合は、軽快までに服用してから7年かかりました)。薬による症状の軽減が難しいこと、つまり精神的に破たんした後、再び以前の生活を取り戻すまで回復させるのがすごく難しいのです。今のところ特効薬はありません。
②に関して言うと、①とも関連することではありますが、長期化するとは、症状が慢性化・遷延化することが非常に多く、例えば3年、5年、10年、位のスパンで回復してゆくという感じです。また心理療法的治療(カウンセリング、グループセラピー、自助グループ)も必須であり、しかもこれも長期間にわたって受けてゆく必要があります(同じく3年、5年、10年)。
このトラウマ性のうつ病の治療は、完治させるというよりも、うまくいって寛解までもってゆけるというのが実際のところで、通常の場合は、または多くの場合は、この病気はそのひとにとって一生つきあってゆかなければならない「障害」となるのです。そして、そんな厳しい現実にあって、トラウマ性うつ病者(トラウマ性難治精神疾患者)に求められるのは、この病気をおのれに与えられた一生ものの障害(運命)として受け止め、自分自身の人生の一部として受け入れることであり、そして、一生付き合ってゆく覚悟をもつ、ということなのです。求められるというのは、以上のような境地になるのを人生自身(運命)がそのひとに要求しているということです。別言すれば、そのような境地にならないかぎり、単なる症状からの苦しみ以上に、自分の障害(運命)を不運に思うという苦しみを負い続けることになるということです。
回復のゴールは病気の治癒というよりも、むしろそうした運命(自分では変えられない絶対的現実)を受け入れる(肯定する)ことができるような心境をおのれ自身の内に培うことなのであり、その道行き(道程)自体がその人のかけがえのない人生そのものになってゆくのです。
このようなことを配慮に入れると、すべてのトラウマ性難治精神疾患者において課せられていることとは、「おのれのトラウマ体験の意義づけ」という思想的課題を完成させることなのです。なぜなら人が現実・運命を受け入れるのは、その現実を何らかの「善きもの」として認識(認知)するときなのであり、「善きもの」とは、「善き現実(意義づけられた現実)」のことだからです。